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15族元素化合物の精緻な分子設計による触媒機能の実現

Exploring Catalytic Function of Group 15 Compounds by Elaborated Molecular Design

現代の有機合成化学に必要不可欠な均一系触媒の多くは,Pd,Pt,Ru,Ir,Rhなどの希少な遷移金属を基盤としている。持続可能なプロセス構築という観点で,これら遷移金属の普遍元素への代替が求められており,有力候補の1つとして典型元素化合物が注目を集めている1)
では,遷移金属錯体を用いた多くの触媒サイクルに共通する「レドックス機構」(Mn/Mn+2の2電子酸化/還元を伴う機構)を典型元素で実現するにはどうすればよいだろうか。この問いに対し,高周期15族元素化合物の有用性がにわかに注目を集めている。契機となったのはRadocevichらの報告であり,彼らはリン化合物1がP(III)/(V)のレドックス機構による水素移動型触媒として機能することを示した2)。成功の鍵は,ピンサー型配位子による15族元素3配位化学種の反応性向上であり,類似の分子設計によりBi(I)/(III)のレドックス機構に基づく触媒的移動水素化も達成されている3)
ごく最近Cornellaらは,独自に設計したビスマス(III)化合物2を起点として酸化的付加,還元的脱離,トランスメタル化のすべての素反応過程を研究し,Bi(III)/(V)の酸化還元過程が確かに含まれることを突き止めた。さらに,誘導体3を用いることで,アリールボロン酸エステルの触媒的フッ素化に初めて成功した。配位子の精緻な設計により,典型元素レドックス触媒の可能性が拓かれた。

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1) R. L. Melen, Science 2019, 363, 479.
2) A. Radocevich et al., J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 11330.
3) J. Cornella et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 4235.
4) J. Cornella et al., Science 2020, 367, 313.

深澤愛子  京都大学高等研究院iCeMS