日本化学会

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柔軟な小分子を用いた巨大結晶空間の形成

Formation of Giant Crystalline Cavities by Using Small, Flexible Units

 結晶は,分子の構造変化が連動するため,巨大なサイズでの連動や複合システムを精密に設計・制御する場として有用である。実際に,シンプルな分子の結晶でも,結晶中の非等価なナノ空間やユニットを柔軟な骨格で連動することで,生体のように複数のユニットが協同的に働くシステムの創出も可能である1)。このように,柔軟な結晶ナノ空間は高度な機能創出が期待できる一方,一般にエントロピー的に不利なため,小さな空間しか構築できないなど制約が多かった。しかし最近,柔軟な小分子を用いた巨大な結晶ナノ空間の形成が報告された2, 3)。  
筆者らは,最近,メチレン基を3つ持つ非常に柔軟なトリペプチド配位子から,直径約2 nmの巨大な空間を持つ環状金属錯体の結晶を形成できることを報告した3)。トリペプチドは,3種類の異なる配位部位を持つため,各金属中心で3つのトリペプチドが連結して網目状構造を形成する。これが,骨格内の水素結合にサポートされ環状につながることで,柔軟な骨格から巨大環状構造を実現していた。また,金属配位結合による原子間の束縛を考慮すると,DFT計算で柔軟なトリペプチドの配座が再現できた。これらの結果は,柔軟なペプチドの配座が主に金属配位結合により決まることを意味しており,強さが異なる複数の結合を適切に用いれば,柔軟な小分子から巨大な構造を"デザイン"して構築できる可能性を示している。今後,DFT計算による安定配座予測を通じて,柔軟な結晶ナノ空間をデザインして合成できる日も近いのではないかと期待している。

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1) 例えば,R. Miyake et al., Chem. Eur. J 2018, 24, 793.
2) T. Sawada et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 7228.
3) R. Miyake et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 8675.

三宅亮介  お茶の水女子大学