日本化学会

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カーボンニトリド光触媒の有機合成への応用

Organic Synthesis Using Carbon Nitride Photocatalyst

近年,遷移金属錯体や有機色素などの均一系可視光酸化還元触媒を利用した有機合成が盛んに研究されている。一方,不均一系光酸化還元触媒は,反応液からの除去が容易かつ熱,光に安定で再利用できるという利点があるにもかかわらず,有機合成への応用は限られている。カーボンニトリド(mpg-CN)は可視光照射下での水の分解に有効なことが報告されて以降1),材料化学の分野で注目を集めている有機半導体である。合成が容易で,毒性の低いこの有機半導体の酸化還元電位は+1.2 Vから-1.5 V(vs SCE)であり,一般的な光酸化還元触媒であるRu(bpy)32+やeosin Yよりも高い酸化力,還元力を示す。また求核剤,求電子剤,ラジカル反応剤や酸性,塩基性条件に対して高い安定性を有する。
上記背景の下,Antonietti, Königらはカーボンニトリドを不均一系光酸化還元触媒とした有機合成に取り組んでおり2) ,最近では(ヘテロ)アレーンの二官能基化を報告している3)。この反応では(ヘテロ)アレーンとアルキルブロミドに対してカーボンニトリド触媒存在下,青色光を照射することでヘテロ原子のオルト位にそれぞれC(sp2)-C(sp3)結合とC(sp2)-Br結合が形成される。同様の手法により20種類以上の官能基を(ヘテロ)アレーンに導入することに成功している。また触媒のカーボンニトリドは遠心分離やろ過によって容易に取り除くことができ,4回以上収率を下げることなく再利用できる。
今後,低毒性かつ安価な不均一系光酸化還元触媒を用いた有機合成反応のさらなる発展および実用化が期待される。

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1) X. Wang, K. Domen et al., Nat. Mater. 2009, 8, 76.
2) A. Savateev, M. Antonietti et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 15936.
3) I. Ghosh, M. Antonietti, B. König et al., Science 2019, 365, 360.

奥村慎太郎 分子科学研究所