日本化学会

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固体中の分子回転を利用した結晶ジャンピング

Crystal Jumping Mediated by Molecular Rotation in Solid-State

サリエント効果(Salient effect)とは,熱や光などの外部刺激によって分子結晶がジャンプするなどの激しい運動性を示す現象のことであり,分子アクチュエーターやエネルギー変換素子などへの応用が期待されている1)。ごく最近,サリエント効果を示すアンフィダイナミック結晶2)(結晶中で分子,またはその一部が回転運動を起こすもの)が報告された3, 4)
NaumovらはCarbazolと1,4-Diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO)を共結晶化させると,DABCOが結晶中で回転運動を示すアンフィダイナミック結晶を形成し,この結晶がサリエント効果を示すことを見いだしている3)。これは,加熱によりDABCOの回転速度が変化するとともに結晶-結晶相転移が起こることによるものと考えられている。
同時期に筆者らは,ダンベル型金(I)錯体1と2が発光性アンフィダイナミック結晶を形成し,これが温度変化によってサリエント効果を示すとともにその発光色が変化する現象を報告している4)。このサリエント効果は,結晶-結晶相転移に起因するものではなく,錯体1の回転部位の静電反発性と温度変化による回転速度の変化に伴う結晶格子の異方的な膨張・伸縮に起因するものと考えられる。これらの現象は,結晶空間を媒体として「数ナノスケールでの分子運動」が「マクロなスケールの力学的挙動」を生み出すという興味深いものである。

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1) P. Naumov et al., Chem. Rev. 2015, 115, 12440.
2) C. S. Vogelsberg et al., Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 1892.
3) A. Colin-Molina et al., Matter 2019, 1, 1033.
4) M. Jin et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2019, 58, 18003.

陳 旻究 (じん みんぐ)北海道大学化学反応創成研究拠点