日本化学会

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バイオマスを原料とする有機窒素化合物の合成

Synthesis of Organic Nitrogen Compounds from Biomass

海洋中に豊富に存在するバイオマスであるキチンは,N-アセチルグルコサミン(NAG)がグリコシド結合で多数繋がった高分子であり,窒素原子を含む単一ユニットからなる。この特徴が徐々に注目され1),キチンから窒素を含む化学品を合成する研究が黎明期を迎えている。
キチンを化学原料として利用するためには,まず加水分解によりNAGに変換することが好ましい。工業的には,多量の濃塩酸と酵素を組み合わせる方法,グルコサミンにまで分解した後に再度アセチル化する方法が実施されているが,効率の改善が必要である。筆者らは,新反応法として機械的な力と酸を組み合わせたメカノキャタリシスによる加水分解を提案している2)。機械的な力を併用することにより,酸を触媒量に削減でき,さらにアミド基を保持したままグリコシド結合を選択的に加水分解できる。
生成したNAGの変換反応では,脱水反応により芳香族基材や医薬品原料として利用できる3A5AF3~5),水素化―脱水環化によりポリマー原料として期待できるアミドアルコール6),そしてC-C結合切断を経て標準アミノ酸誘導体であるN-アセチルグリシン7)などが合成されている。これらはキチンから特異的に得られるものであり,C,H,Oのみからなるセルロースやでん粉,油脂などの変換反応とは異なる新しい展開が生まれている。

chem73-8-02.jpg 1) N. Yan et al., Nature 2015, 524, 155.
2) M. Yabushita et al., ChemSusChem 2015, 8, 3760.
3) Y. Liu et al., ChemPhysChem 2014, 15, 2723.
4) M. Osada et al., Fuel Proc. Technol. 2019, 195, 106154.
5) A. D. Sadiq et al., ChemSusChem 2018, 11, 532.
6) T. Sagawa et al., ACS Sustainable Chem. Eng. 2019, 7, 14883.
7) K. Techikawara et al., ACS Sustainable Chem. Eng. 2018, 6, 12411.

小林広和 北海道大学触媒科学研究所