日本化学会

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「史上最薄」のビニル高分子シートの合成

Synthesis of the Thinnest Vinyl Polymer Sheets

わずか1分子の厚みしかない高分子薄膜は,その超異方的なトポロジーに由来する特異な熱的,電子的,力学的特性等が発現すると予想されている。しかし,このような究極の薄膜を得るには,基板表面を使った重合や層状高分子結晶の剥離法などを利用するしかなく,非常に特殊なモノマーを使う上,生成量が極めて少ないという難点があった1, 2)
筆者らはこれまで,多孔性金属錯体(MOF)のナノ空間を重合反応場とすることで,様々な高分子の制御合成ができることを報告してきた3)。今回,二次元状の空間構造を有するMOFを鋳型とし,スチレンやメタクリル酸メチルなどの汎用ビニルモノマーをその内部空間で重合・架橋することで,これまでで最も薄いビニル高分子薄膜を大量に合成することに成功した4)
得られた高分子薄膜は架橋構造をしているにもかかわらず,種々の溶媒に可溶化することがわかった。また,従来のビニル高分子と比べて弾性率が極めて低く,柔軟性が大幅に向上することも明らかになった。これは,一般的なビニル高分子は紐状構造で互いに絡み合うのに対して,今回の高分子薄膜では,高分子同士が絡み合えない特異なトポロジー効果に起因するためである。本研究を通して,極薄高分子シートに特有の極めて重要な性質を明らかにすることができた。

chem73-11-02.jpg 1) S. Hecht et al., Nat. Chem. 2012, 4, 215.
2) A. D. Schlűter et al., Nat. Chem. 2012, 4, 287.
3) T. Kitao et al., Chem. Soc. Rev. 2017, 46, 3108.
4) N. Hosono et al., Nat. Commun. 2020, 11, 3573.

植村卓史 東京大学大学院新領域創成科学研究科