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金属-金属間に結合性相互作用を持つ3核トリウムクラスター

Tri-thorium Cluster with Metal-Metal Bonding Interaction

金属-金属間結合を有する金属錯体分子は,一般に金属クラスター分子と総称される。金属クラスター分子は,金属-金属間結合が関与する触媒作用や,特異な電気的・磁気的性質など,クラスター固有の化学的性質を示すため,dブロック遷移金属を中心に多くの金属クラスター分子が合成されてきた。一方,アクチノイド-アクチノイド結合を有する化合物は,これまで気相中で分光化学的に観測されたU2,Th21)や,低温マトリクス中でのU2H2,U2H4などの例に限定され,安定に単離可能なものは未知であった。
最近,KaltsoyannisやLiddleらは,η8-C8H8配位子を有するTh錯体2を,[K2{C4(SiMe34}](1)で還元することで,Th3核クラスター3が高収率で合成できることを明らかにした,2)。一方,KC8を用いた反応では3は低収率のみで得られ,可溶性還元剤の活用が重要であることが示唆される。単結晶X線構造解析の結果,Th-Th間の距離は3.9947(5),3.9896(4) Åであり,Van der Waals半径の和より短い。Ramanスペクトルでは,Th-Th結合に由来する吸収が72, 105 cm-1に観測され,理論的に予測されたTh3骨格に由来する伸縮振動の値と良い一致を示した。理論化学的な検討から,Th3骨格は3中心2電子のσ-芳香族性の結合性相互作用を有することが示されている。σ-芳香族性は,H3やLi3における研究に加え,最近ではPd3核クラスター分子でも報告されている3)。本研究により,アクチノイド-アクチノイド結合を持つクラスター分子が構築できることが実証された。

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1) T. Steimle et al., J. Phys. Chem. A 2015, 119, 9281.
2) N. Kaltsoyannis, S. T. Liddle et al., Nature 2021, 598, 72.
3) M. Malacria et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 1987.

砂田祐輔 東京大学生産技術研究所