日本化学会

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ナノ欠陥上の分子を使った近赤外発光の波長変換

Defect Chemistry in Cabon Nanotubes for Near Infrared Emission Modulation

近年,単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に少量の化学修飾(長さ10 nmに1ヵ所程度)を施した局所化学修飾SWCNT(lf-SWCNT)が長波長化(>1000 nm)かつ高輝度化した近赤外発光を示すことが注目されている1, 2)。本修飾は,SWCNTと修飾分子との共有結合形成を利用してナノチューブのsp2炭素ネットワーク構造体中にsp3炭素欠陥を導入している。この欠陥ドープによってチューブ中に低エネルギーの欠陥準位が形成され,これが励起子捕集アンテナとしても機能して励起子が効率的に発光へ変換される。このようにして,上述の発光特性をもたらすナノ欠陥が生成される。
筆者らはナノ欠陥上に修飾する分子を設計し,分子認識や動的共有結合形成を基にlf-SWCNTの発光波長変換を導くことに成功してきた1, 2)。最近ナノ欠陥上で光化学を行う観点から,ジアリールエテン(DAE)を修飾したlf-SWCNTを合成した3)。本材料ではナノチューブ上のDAEの光異性化反応がエネルギー移動等の失活を伴うことなく可逆的に導けた。この際lf-SWCNTが示す1142 nmの近赤外発光(図中 )の光波長変換(紫外光照射→発光長波長化,可視光照射→発光短波長化)が誘起された。理論計算からDAE異性体構造の違いによりSWCNTとの軌道の相互作用が変化し,バンドギャップ変調が起きることが示された。可逆的かつ繰り返し可能な光スイッチングが1000 nmを超える近赤外発光で可能なことから,光制御可能な量子通信デバイスなどへの応用が期待される。lf-SWCNTでは上記以外にも特異な環境応答性が観測されており4),新たな波長変換機構に基づく近赤外センサー開発など様々な展開が期待できる。

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1) T. Shiraki, Chem. Lett. 2021, 50, 397.
2) T. Shiraki et al., Acc. Chem. Res. 2020, 53, 1846.
3) Y. Nakagawa et al., J. Phys. Chem. C 2022, 126, 10478.
4) Y. Niidome et al., J. Phys. Chem. C 2021, 125, 12758.

白木智丈 九州大学大学院工学研究院