日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >無機化学 >結晶中に形成されるカチオン二量体

結晶中に形成されるカチオン二量体

Cation Dimerization in Inorganic Crystals

電子が局在した結晶性固体においては,磁性などの性質は孤立した各イオン間の相互作用で考えることができる。しかし一部の物質では,カチオン間に形成される化学結合(分子軌道)により,この描像は成り立たなくなる。有名な例として,二酸化バナジウムVO2のパイエルス転移が知られている。この物質では,約340 K以下でバナジウムイオン間に新たな化学軌道が形成されることで,バナジウムイオンの二量体化と金属-絶縁体転移(非磁性化)が起こる。近年,二量体のほかにも,三量体などの様々な多量体を持つ物質が複数報告されている。
筆者らはカチオン二量体化の舞台として,イルメナイト型バナジウム酸化物に着目した。これらの物質の結晶構造中では,V4+イオンがハニカム格子を形成する。最近の筆者らの研究により,超高圧合成法を用いて作製したMgVO3やCoVO3,MnVO3などにおいて,500~550 K以下でV-V二量体化が起こることを発見した1, 2)。V-V二量体は図のように,はしご状に配列することがわかった。
V-V二量体化は磁性や電気特性,結晶構造に変化を与えるため,新しい機能創出の駆動力に活用できる2, 3)。さらにV-V二量体化のメカニズム解明のために,超高圧下で作製した単結晶試料を用いた量子ビーム実験も,精力的に進めている。

chem76-03-02.jpg


1) H. Yamamoto et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 1082.
2) S. Kamiyama et al., Inorg. Chem. 2022, 61, 7841.
3) H. Yamamoto et al., Appl. Phys. Lett. 2022, 120, 201901.

山本 孟 東北大学多元物質科学研究所