日本化学会

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フロー技術集積による合成プロセスの単工程化

Integration of Flow Technics Unifies Synthetic Operations

複雑構造を有する有用化合物の合成では,多段階の反応とそれぞれの中間体の分離・精製プロセスが必須である。それらに費やされる人的・時間的・環境的コストは計りしれない。したがって現代の化学分野においては,反応・分離・精製それぞれの連続化,すなわち単工程化によるこれらコスト低減が果たす役割は大きい。
連続的に試薬を流通させて反応させるフローマイクロリアクターは,中間体の分離・精製プロセスが省略でき,反応の単工程化において効果的である。例えば,複数のフローマイクロリアクターを連結し,ハロゲン-リチウム交換反応と求電子剤との反応を2回ずつ連続的に行うことにより,従来のフラスコ化学では困難だった,異種金属置換基を有する芳香族化合物の高速合成が,反応時間30秒の一気通貫で達成されている1)
一方で,フロー分離技術による反応の後処理の連続化研究も盛んに行われている。流路内に疎水,親水性の膜の利用や,液面高さをコンピューター制御して下層である水層を除去するタイプのフロー型液-液分離装置の開発によって2),最近では,それらのフロー分離技術をフロー反応に直接利用した一気通貫化も達成されている3)
今後のフロー技術の革新により,フロー反応技術やフロー分離技術に加え,フロー型の結晶化や濃縮,分析などあらゆる有機合成的な操作が連続化・単工程化が可能となり,有機合成の効率化,ひいては持続可能な社会発展へ繋がるものと期待される。

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1) Y. Ashikari et al., J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 17039.
2) A. Adamo et al., Science 2016, 352, 61.
3) C. Liu et al., Nat. Chem. 2021, 13, 451.

永木愛一郎 北海道大学大学院理学研究院