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リグノセルロース系バイオマスの全成分有効利用に向けた新戦略

A New Strategy for Effective Utilization of All Components in Lignocellulosic Biomass

リグノセルロースは豊富に存在する持続可能なグリーン炭素資源である。これを構成成分であるセルロース,ヘミセルロール,リグニンに分画し,付加価値の高い材料や化学品に変換するための技術開発が重要視されている。しかしながら,パルプ化に代表される従来の分画法ではセルロースの利用に重点が置かれており,ヘミセルロースとリグニンに由来する生成物は過度な分解や変質によりその後の用途や化学変換が限られている。
リグノセルロースの全成分有効利用に向けた新たな戦略としてリグニンファースト法が注目されており,還元的接触分画(RCF)による技術開発が目覚ましい1)。本法では,水素ガス雰囲気下で金属触媒を用いてリグニンを剥離・解重合し,セルロースを豊富に残したまま,理論収量に近いリグニンモノマーを得ることができる。また,外部から水素ガスを供給する必要のないプロセスも開発されている。例えば,Samecらは,リグノセルロースをPd/C触媒存在下,エタノール/水溶媒中195℃で処理する反応を報告しており,ここでは原料中のヘミセルロースの一部とエタノールから水素源が供給されている2)。さらにWangらは,Pt/NiAl2O4触媒による水溶媒中140℃の反応を開発し,原料中のヘミセルロースのみを水素源とすることに成功した3)。本法は自己水素供給型接触分画(SCF)と呼ばれ,リグノセルロースを原料とするバイオリファイナリーの構築に向けた新しい一手となる。

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1) M. M. Abu-Omar et al., Energy Environ. Sci. 2021, 14, 262.
2) M. V. Galkin, J. S. M. Samec, ChemSusChem 2014, 7, 2154.
3) H. Zhou, X. Liu, Y. Guo, Y. Wang, JACS Au 2023, 3, 1911.

太田英俊 愛媛大学大学院理工学研究科