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異常高原子価Fe3.5+がもたらす特異な逐次相転移

Cascade Transitions Induced by Unusually High Valence Fe3.5+

Fe4+やCo4+など,典型的な価数よりも高い価数(異常高原子価)状態のイオンを含む物質は,その電子的不安定性の解消に起因した特異な相転移を示すことがある。例えば,4重ペロブスカイトLnCu3Fe4O12(Fe3.75+)では,3Cu2++4Fe3.75+ → 3Cu3++4Fe3+で示されるサイト間電荷移動転移1)が生じ,同時に巨大負熱膨張や巨大圧力熱量効果2)などの実用上も重要な性質が現れる。このように,異常高原子価イオンを含む物質は従来にはない物性・機能性を発現し得るが,強酸化条件下での合成が必要であるため,報告されている物質例はそれほど多くはない。
筆者らは,オゾン雰囲気下でのトポケミカル酸化反応を用いることで,Fe3.5+を含むAサイト層状ダブルペロブスカイトSmBaFe2O6の合成に成功した3)。SmBaFe2O6では,異常高原子価かつ混合原子価であるFe3.5+が逐次的な電荷転移(Fe3.5+2 → Fe3+Fe4+ → Fe3+1.5Fe5+0.5)を起こし,各転移において異なる磁気秩序が現れる新現象を発見した。
また,高圧法を用いることで,八面体配位のFe酸化物ではFeの価数が+5のみで形成される初めての例である岩塩秩序型ダブルペロブスカイトLn2LiFeO64)の合成にも成功している。
これらの異常高原子価イオンを含む新物質での新物性の発現や革新的な機能開拓につながることが期待される。

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1) Y. W. Long et al., Nature 2009, 458, 60.
2) Y. Kosugi et al., Adv. Funct. Mater. 2021, 31, 2009476.
3) M. Iihoshi et al., J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 10756.
4) M. Goto et al., J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 19207.

後藤真人 京都大学化学研究所