日本化学会

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PFASの電量測定

Coulometric Determination of PFAS

高度にフッ素化されたアルキル鎖を持つアニオン性界面活性剤(per- and polyfluoroalkyl substances : PFAS)は,優れた界面活性能と化学的安定性により広く産業で利用されてきたが,その特性ゆえに環境残留性・蓄積性が問題となり,炭素鎖が8のPFASは使用・製造が規制されている。近年,環境水あるいは水道水中において残留PFASの検出が報告され,PFASの分析が求められている。
PFASの分析に関する公定法として,固相抽出により濃縮したのち,LC/MSまたはLC/MS-MSで分離・定量する方法が定められている。しかし,高額の装置や標準試料が必要であり,その場分析には適していない。そこで簡易PFAS測定法が研究されている。その例としてPFASの電量測定法を紹介する1)。電位印加によって,試料溶液中のアニオン性PFAS全量を有機膜へ移動させ,移動にともなう電流を積算して電気量として測定する方法である。電気量は,ファラデーの法則に従い直接物質量に変換できるため,検量線を必要としない。5~200 μM perfluorohexanesulfonate(PFHxS)試料溶液0.5 μLを測定した結果,検量線を用いることなく真値からのずれ4%以内,変動係数5%以内で定量可能であった。Perfluorooctane sulfonate(PFOS)試料溶液についても同様に定量できる。開発した電解セルは小型のフローセルであるが,使い捨てセンサチップへの改良も可能である2)。今後,適切な濃縮法と組み合わせることで,携帯可能なその場分析法として発展することが期待される。

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1) R. Iwasaki et al., Electrochemistry 2023, 91, 087004.
2) S. Tatsumi et al., Electrochim. Acta. 2022, 408, 139946.

吉田裕美 京都工芸繊維大学分子化学系