日本化学会

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合金酸化物クラスターを利用した低価数金属の生成と発光

Photoluminescence from Low-valent Metals in Alloy Oxide Clusters

金属クラスターは,数個から数十個の原子から成る直径1 nmの極小粒子であり,顕著な量子サイズ効果をはじめとした特異的な性質を有する物質群である。しかし,原子レベルの精度を要するクラスターの合成は極めて難しく,特に複数の元素を含む合金クラスターの精密合成は,報告例が非常に少ない未開拓の領域となっている。
筆者らは,高分子カプセルを利用する独自の精密クラスター合成法1~3)を用いて,当該物質群の物性開拓を様々に行っており,近年では,合金酸化物クラスター中の金属元素が配位不飽和状態となり,通常よりも低い酸化状態をとる現象を見いだしている。例として,混合比がちょうど1:1に近い組成を持つIn-Sn酸化物クラスターにおいて,安定なInIII種とSnIV種に対して,相対的に不安定なInI種とSnII種の顕著な増大が観察される4)(図上)。このようなクラスターは,しばしば電荷移動遷移や原子軌道内遷移に基づく特有の発色や発光を呈することが確認されており,上記のInI種を含むクラスターは,5s2-5s15p1遷移に由来する可視吸収と緑色のフォトルミネセンスを示す(図下)。
このように,適切な原子数や元素組成を有するクラスターの設計により,従来は困難であった不安定な化学種・電子状態の利用が可能となることが示唆されており,将来的に新たな光物性や光化学反応の創出に繋がることが期待される5)

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1) T. Tsukamoto et al., Nat. Commun. 2018, 9, 3873.
2) T. Tsukamoto et al., Acc. Chem. Res. 2021, 54, 4486.
3) T. Tsukamoto et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2022, 61, e202114353.
4) T. Tsukamoto et al., J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 19078.
5) T. Tsukamoto et al., Nat. Rev. Chem. 2021, 5, 338.

塚本孝政 東京大学生産技術研究所