資源循環型社会の構築に向け,プラスチックのケミカルリサイクルが注目を集めている。いくつかの汎用プラスチックに関しては,化学原料資源回収技術などがすでに実用化されつつある一方で,安定結合を主鎖に持ち,強度や耐熱性に優れるエンジニアリングプラスチックのリサイクル技術の開発は発展途上と言える。これの理由として,エンジニアリングプラスチックは,用途によって主鎖構造が様々であるため,リサイクル技術の実用化には,まずプラスチックの性質に合わせた新しい解重合反応を開発することが必要不可欠である点が挙げられる1, 2)。最近筆者らは,耐熱性に優れ,電子部品などに用いられるエンジニアリングプラスチック,ポリフェニレンオキシド(PPO)の解重合法を開発した3)。
PPOはケイタングステン酸H4SiW12O40·26H2Oを触媒としてNO3-から簡便に生成可能なニトロニウムイオン(NO2+)により一電子酸化を受ける。結果として,求電子性が高められたフェニレン部位が水と反応することにより,主鎖の炭素-酸素結合が温和な条件下で切断されることを見いだした。これを利用することで,PPOの分解による選択的なベンゾキノン類生成が達成された。このベンゾキノンは,ポリイミン合成の原料であり,実験室レベルではあるが,開発された手法によりPPOの新たなアップサイクル法が提示された。今後のさらなる取り組みにより,多様なプラスチックのリサイクル法が開発されることを期待する。
1) S. Tanaka, J. Sato, Y. Nakajima, Green Chem 2021, 23, 9412.
2) Y. Minami, Y. Nakajima et al., Commun. Chem. 2023, 6, 14.
3) Y. Shimoyama, Y. Nakajima, ChemSusChem 2023. doi:10.1002/cssc.202300684
中島裕美子 東京工業大学物質理工学院,産業技術総合研究所触媒化学融合研究センター