日本化学会

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カラフルな蛍光を生み出す柔軟な構造の分子プローブ

Flexible Molecular Probes Producing Colorful Fluorescence

標的分子を認識して蛍光応答を示す分子プローブは,生命現象を可視化するための簡便なツールであり,生命科学や医学などの分野で使用されてきた。従来の分子プローブは,標的分子の官能基を認識するために,適切な反応部位を導入することで設計されている。しかし,そのような指針では,同じ官能基を持つほかの分子も同様に検出してしまうという問題がある。そのため,類似構造の微小な違いに応じて,異なった応答を鋭敏に示す分子プローブの開発が望まれてきた。
近年,励起状態での柔軟な構造変化に起因し,周辺環境に依存して様々な色の発光を与える,Vibration-induced emission(VIE,図1)と呼ばれる二重発光機構が注目されている。VIEを分子認識機構へ導入することで,高選択性を追い求めなくとも,類似分子の構造の違いに応じて様々な蛍光色を示す新しいプローブが設計された。例えば,Chenらによる,分子の鎖長を蛍光色で識別する"分子ノギス",Ramos-Sorianoらによる,単糖類の構造の違いを見分けるプローブ等がある1, 2)
特に最近では,複数のVIE型プローブのセンサアレイ系に基づくことで,分子よりもはるかに複雑な構造体に対する識別法の開発へと発展している。Huらは,薬剤耐性菌の表現型分類のためのセンサアレイ系を開発した3)。細菌表面の構造の違いに依存してアレイ上の出力パターンが多様に変わるため,その主成分分析から耐性菌の分類が行われる。
多様な蛍光応答を与える分子プローブは,従来法では認識しづらい高次な情報を可視化するものであり,今後より複雑な分析系への応用へ継ぐと期待する。

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1) W. Chen et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 14798.
2) J. Ramos-Soriano et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 16880.
3) X. Hu et al., J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 8917.

鈴木陽太 埼玉大学大学院理工学研究科