日本化学会

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生体分子を燃料とする高分子材料

Biomolecule-fueld Polymers

生体分子に応答して体積や構造を変化させるハイドロゲルは,薬物徐放材料・細胞培養足場材料・アクチュエータなどとして古くから研究されている1)。これら従来の生体分子応答ゲルは,標的となる生体分子を刺激とした平衡状態変化に基づいて応答挙動を示すものがほとんどである(図1A)。対照的に,生命現象においては多くの機能が生体分子を燃料として継続的に消費することで非平衡条件下において速度論的に制御されている(図1B)2)。このことにより時空間的なリズムの制御・機能寿命の制御・再生性などのユニークな機能が実現される。近年,生命のダイナミックな性質から着想を得て,燃料の継続的な消費により非平衡機能を示す高分子ハイドロゲル材料に関する研究が多くの注目を集めている3)。一方で,生体分子を燃料としたハイドロゲルに関する例は多くない。筆者らはこれまでに栄養摂取,同化および異化過程,そして老廃物の排泄からなる代謝サイクルから着想を得て,ペプチドや酵素などに対する親和性および分解能を併せて付与したハイドロゲル・酵素複合体を報告してきた。これらのハイドロゲルは生体高分子を燃料として摂取することで非平衡条件下における過渡的な体積変動・物質徐放・強度変動を示し,燃料の消費により自律的に初期状態へと戻る(図1C)4, 5)。最近ではH. Joらによって細胞代謝を介して散逸される生体分子(グルコース)を燃料として,過渡的なゲル-ゾル転移を生じる細胞・高分子複合材料が報告された6)。これらの生体分子を燃料として非平衡機能を示す合成高分子材料は生体様にダイナミックに働く人工材料として今後の発展が期待される。

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図1 (A)従来の生体分子応答性ゲル,(B)生
体の代謝サイクル,(C)生体分子を燃料とする
ハイドロゲル


1) T. Miyata et al., Drug Delivery Rev. 2002, 54, 79.
2) K. Das et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 20120.
3) M. Onoda et al., Nat. Commun. 2017, 8, 15862.
4) M. Nakamoto et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2022, 61, e202205125.
5) Y. K. Hong et al., J. Mater. Chem. B 2023, 11, 8136.
6) H. Jo et al., J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 1811.

仲本正彦 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻