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DNA内電荷移動に関する最近の研究展開

 DNA 内の電荷やエネルギーの移動はDNA 損傷などの生体現象との関連から関心を集めているが,そのダイナミクスが近年明らかにされつつある。Markovitsi らはcalf-thymus DNA の蛍光異方性解消が1 ピコ秒より高速で起こることを見いだした1)。この異方性解消はDNA 内の励起エネルギー移動を示し,彼らは,励起した核酸塩基が近接塩基と電荷分離し,それぞれの電荷がDNA 内を移動したのち再結合して,励起状態を再成する機構を提唱した。エネルギー移動においても,電荷移動が重要な寄与を果たしていることは非常に興味深い。

 DNA 内のホール移動については,Lewis らが,隣接するアデニン間及びグアニン間でそれぞれ1.2×109 s-1 と4.3×109 s-1 の速度でホール移動が起こることを報告している2)。これらの速度定数は筆者らが報告したナノ秒過渡吸収から求めたホール移動収率に基づく値(2×1010 s-13)に比べ若干小さいものの,サブナノ秒オーダーでホールがホッピングすることを示している。

 一方,負電荷である過剰電子のDNA内の移動に関する知見はホールに比べ少ない。筆者らはオリゴチフォエンとジフェニルアセチレンをそれぞれ光増感電子供与体と電子受容体として用いたダンベル型DNA を用い過剰電子移動速度の導出を行った4)。その結果,隣接チミン間の過剰電子移動速度は4.4×1010 s-1と求められ,過剰電子はホールと同等かそれより速い速度でDNA 内を移動していることが示された。今後,他の核酸塩基間の過剰電子のホッピング速度を明らかにする予定である。これらの知見から,生体現象の解明及び治療,ナノテクノロジー応用の新しい展開が予想される。

1) I. Vayá et al., J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 11366.
2) S. M. M. Conron et al., J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 14388.
3) T. Takada et al., J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1125.
4) M. J. Park et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 15320.

藤塚 守・真嶋哲朗 大阪大学産業科学研究所