丸岡 啓二
Keiji Maruoka
2024年度・2025年度 日本化学会 会長
次世代を担うリーダー型若手研究者を育成しよう
今年は辰年である。中国では,古くから辰年は荒れる年といわれているが,日本でも元旦に能登半島で大きな地震が発生した。亡くなられた方々に深く哀悼の意を表するとともに,被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。
さて,近年,我が国は元気がなくなったと言われて久しい。この 30 年間,平均賃金の横ばい状態が続き,欧米諸国はもとより周辺諸国にも後塵を拝する状況である。また,サイエンス面でも我が国の国際レベルの低下が続いている現状を踏まえると,元気が出ないのも当然であろう。天然資源や食料に恵まれない我が国では人的資源の活用が極めて肝要で,国民一人当りの知的レベルを高めるとともに個々の生産性を上げる努力をしないと世界で生き残ることは難しい。イノベイティブな物を生み出す研究開発において,我が国の基礎,応用研究における国際競争力を磨くため,日本化学会はアカデミア,産業界におけるイノベーションや産業変革を先導できる人材,特に次世代を担う若手人材の育成,輩出の場を提供する必要があろう。手をこまねいている時間はあまりない。有効な対策の一例として,2010 年から有機化学の分野で取り組んでいる「大津会議の試み」を紹介したい。
約 25 年前,今後の日本に必要なエリート育成を目指した「リーダー型若手研究者を育成する若手道場」の設立を提案したことがある。従来,将来有望な若手研究者の出現は自然の成り行きにまかせていたが,優れた若手研究者を積極的に育成して行く必要に迫られたからである。しかしながら,その当時,この手の取り組みは皆無であったということもあり,その実現は10 年以上も見送られてきたものの,2010 年にやっと「大津会議」という若手育成の場が誕生した。金の卵と言うべき志願者は,全国の有機化学分野の学振特別研究員の中から毎年 16 名が選抜されている。すでに第 1 ~ 14 期生が約 230 名に達しており,そのうちの7 割近くが助教,講師や准教授として有機化学界で活躍し,今では日本の有機化学界の一大勢力になっている。今後は日本化学会として,このような活動を有機化学のみならず他の科学分野,そして女性研究者の育成へと広げることにより,日本化学会を通して日本の産学界を活性化する起爆剤にしたいと考えている。
また,日本化学会は 2028 年には設立 150 周年の節目を迎えることになる。我が国の化学者や化学技術者の日頃の活動を通して,広く一般市民や海外の方に,化学分野の社会における重要性や化学に対する正しい認識を持ってもらうための重要な機会と捉えて,この 150 周年記念事業を計画し,産学官からの支援をいただきながら強力に推進したいと考えている。
公益社団法人日本化学会 会長
京都大学大学院薬学研究科
丸岡啓二