最も単純な原子間力顕微鏡(AFM)は試料に接触した探針を走査して表面形状を記録する。探針による表面破壊を懸念して,探針を取り付けた板バネ(カンチレバー)を振動させ,試料と間欠的に接触させる方式が合成高分子や生体物質など柔らかい試料の観察に利用されるが,接触による試料変形を完全には払拭できない。ゆえに探針を試料に接触させない走査技術が求められてきた。これに応えるためにカンチレバーを振動させながら試料に近づけ,固有振動数の変化を使って探針に加わる力を計測するAFM(FM-AFM)の開発と実用化が進んでいる。
真空中で動作するFM-AFMの力検出感度は10-12 Nに達し,単一ナフタロシアニン分子の骨格構造や分子内電荷分布の画像化すら可能である1)。ほぼ同等の検出感度を液体中で実現する技術が日本で開発され,DNA二重らせんの外周を構成するリン酸の水中観察や2),イオン液体中でマイカ表面の原子配列を観察した画像3)が報告されている。力検出感度の向上は測定法に質的変化をもたらし,固体に接する液体の構造(密度分布)を画像化することも可能になった。一例として,親水性単分子膜に水素結合した液体水の構造を画像化した研究4)をあげる。
FM-AFMの開発と商品化において日本は抜きんでた技術力と実績をもつ。日本発の先端計測技術を触媒・コロイド界面・高分子・電気化学などの分野の基礎研究と技術開発に活かして行きたい。本誌読者のみなさまの応援をお願いする。
1)F. Mohn et al., Nature Nanotechnol. 2012, 7, 227.
2)S. Ido et al., ACS Nano 2013, 7, 1817.
3)T. Ichii et al., Jpn. J. Appl. Phys. 2012, 51, 08KB08.
4)T. Hiasa et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 2012, 14, 8419.
大西 洋 神戸大学理学研究科