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有機無機ペロブスカイト太陽電池

 有機無機ハイブリッド構造のペロブスカイト結晶を光吸収に用いる太陽電池のエネルギー変換効率が急速に向上し,シリコン太陽電池に迫る16%を超える効率に届いている。CH3NH3PbX3(X =ハロゲン)の組成から成るペロブスカイトは,溶液塗布と乾燥によって容易に薄膜が形成される。1990 年代に我が国でそのユニークな物性と発光特性が研究され,2009 年にこれを光電変換に使った最初の研究を筆者らが報告した1)

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当時は色素増感太陽電池の固体増感剤として酸化還元電解液を組み合わせた系であったが,2012 年にはこれを有機の正孔輸送材料と接合した全固体の素子で10%を超える効率を実現した2)。その後,層構成に改良が加えられて1ヵ月単位で高効率化の成果が続々とNature,Science に発表され,2013 年にはScience 誌のBreakthrough of the year に選ばれている。高効率の原資となっているのは強い光吸収(集光)能力と,1 V を超える高い出力電圧である。後者にはこのハイブリッド結晶が光電子と正孔の両方を再結合なく長距離に移動できる物性をもつ特徴が寄与しており,DFT 計算によっても再結合の抑制される構造が検証されている。この効果は,ペロブスカイト塗布膜が強い発光を与える現象にもつながる3)。厚さ300 nmのCH3NH3PbI3 は,800 nm(1.55 eV)までの可視光を全吸収し,ほぼ量子効率1 で電子に変換する。1.55 eV から1 V以上の開回路電圧(Voc)を取り出せる素子構成は,標準のSpiroMeOTAD に替えて様々な有機と無機の材料(ポリチオフェン,フラーレン, CuSCN 等)を電荷輸送に使う応用も可能にしている。素子作りは溶液塗布法を全層に使えるために高速で低コストの製造にもつながる。低温製膜でプラスチック基板上に作ったフレキシブル太陽電池も効率10%を超えており,ペロブスカイト結晶が単品で光吸収と電荷輸送を兼ね,高光起電力を実現する能力が,周辺素材を変えた多様な高効率セルを可能にしていると考えてよいだろう。筆者らもVoc が1.2 V に迫るペロブスカイト太陽電池を見いだしている。

1) A. Kojima, K. Teshima, Y. Shirai, T.Miyasaka, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 6050.

2) M. M. Lee, J. Teuscher, T. Miyasaka, T. N.Murakami, H. J. Snaith, Science 2012, 338, 643.

3) A. Kojima, M. Ikegami, K. Teshima, T. Miyasaka, Chem. Lett. 2012, 41, 397.

宮坂 力 桐蔭横浜大学

関連リンク

Chemistry Letters, 『Focus Collection:ペロブスカイト型太陽電池』 Open Access