日本化学会

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微小体積を活用する化学研究

 微細加工技術を用いて作製したデバイス上に,化学操作を集積するマイクロ化学が注目を集めている。例えば,単分散微小液滴に試料を分け,それぞれ独立にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を行い,DNA を分析する手法が実用化されている1)。単一分子解析が可能な手法の1 つである。このような,試料の微小化や並列化は,基礎化学研究にも強力なツールになる可能性がある。
 水の過冷却や氷は,伝統的かつ新しい基礎化学トピックである。核生成,結晶成長,氷のプロトン伝導など未解明現象が多くあり,先端的解析手法を用いた基礎物性解明が進められている。例えば,氷をクロマトグラフィーの固定相として用い,氷/有機相界面に数 nm 厚の擬似液相が存在することが初めて観測された2)
 マイクロ分析デバイスを用いる例として相転移に注目した研究がある。図に示すように,体積60 pL の単分散微小液滴を,デバイス中のチャンバーアレイに互いに接触なく並べ,100 個以上の液滴の核生成温度と核生成発生時間を,個別かつ一斉に解析した3)。温度低下による核生成確率上昇,添加物による凝固温度低下などを-60~-30 ℃の範囲で解析している。本質的に単一イベントである核生成現象を,確度高く,効率よく解析する手法である。
 並列化した単一イベント解析は,液滴PCR 法のような少数個分子解析と同様,分析原理や化学反応の解析に広く用いられる手法に発展すると期待できる。

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1) M. Baker, Nat. Methods 2012, 9, 541.

2) Y. Tasaki et al., J. Phys. Chem. 2008, 112, 2618.

3) J.F. Edd et al., Lab on a Chip 2009, 9, 1859.

福山真央・火原彰秀 東京工業大学化学専攻