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4本鎖DNAをターゲットとする抗がん剤開発

 4本鎖DNAへ結合し,テロメラーゼを阻害する分子が副作用の低い抗がん剤開発の観点から注目されている。これはガン細胞で発現するテロメラーゼがテロメアDNA部位の4本鎖形成によって阻害されることによる。これまで開発されてきた4本鎖DNA結合に基づくテロメラーゼ阻害剤は,3つのグループに分類される1, 2)。すなわち,4本鎖DNAで形成されるグアニン(G)カルテット平面と重なり(スタッキング)相互作用を効果的に行えるテロメスタチン等(グループI),G カルテット平面の若干の歪みに適合できるPhen-DC3 等(グループII),4本鎖DNA の4つの溝に置換基を配置し,アンカーとなる4置換ナフタレンジイミド(Tetrasubstituted NDI)(グループIII)である。最近,ナフタレンジイミドの2つの置換基を連結された環状ナフタレンジイミド(Cyclic NDI)が報告された3)。この分子は,2本鎖DNA結合に対しその置換基が立体的に邪魔となるために抑えられ,4本鎖DNA,特にハイブリッド型4本鎖DNA のGカルテットには効果的にスタッキングする。Cyclic NDIは,2本鎖DNAに比べ4本鎖DNAへの結合が240倍高いことが示された。このような4本鎖DNA 特異的試薬は新たなグループIVに属する。蛍光色素を導入した4本鎖DNA 特異的抗体を用いて,生きている細胞中での4本鎖DNAの存在が証明された4)。また,テロメア領域以外での4本鎖構造が確認されたことや癌原遺伝子c-myc等の4本鎖形成による遺伝子制御が示された。このことから4本鎖DNA結合リガンドは,抗がん剤としてのみならず,新たな遺伝子制御試薬としても期待される。

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1) T. Ou et al., ChemMedChem 2008, 3, 690.

2) G. W. Collie et al., J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 2723.

3) Y. Esaki et al., ChemComm 2014, 50, 5967.

4) G. Biffi et al., Nat. Chem. 2013, 5, 182.

竹中繁織 九州工業大学工学研究院