酵素反応を利用した人工化学プロセスは,化学工業やバイオセンサーなど幅広い分野で開発が進んでいるが,生体内とは異なる温度,溶媒組成,pH条件での反応系における酵素機能の失活が問題であり,外部環境に左右されないで酵素機能を利用する方法論が求められる。
メソポーラスシリカは,酵素サイズと同程度の細孔径を有する規則的メソ多孔体であり,酵素機能を安定化する無機ホスト材料として注目されている1)。例えば,メソポーラスシリカ細孔内に固定化されたペルオキシダーゼ1)やミオグロビン2)など種々の酵素について,高温や有機溶媒環境においても高い安定性を維持しながら酵素活性を示すこと,優秀な繰り返し安定性をもつことなどが報告されている。このように,メソポーラスシリカをホストとした酵素反応系のメリットは実証されているが,メソサイズの細孔内における遅い分子拡散は反応時間の長さをもたらすデメリットとなる。
そのような中,反応基質や生成物質のとおり道となるマクロ細孔と酵素固定化用のメソポーラスシリカ細孔,というサイズの異なる細孔構造を組み合わせた複合メソポーラス材料の利用が報告された3)。その報告では,ホルムアルデヒド脱水素酵素を複合メソポーラス材料に導入し,ホルムアルデヒド計測応用について検討しており,微量のホルムアルデヒドを2分以内に計測できることが示されている。複合メソポーラス材料は,迅速性と長期安定性を備えた酵素反応系としてバイオ計測のみならず,触媒や光デバイスとしても有効であり,今後の更なる発展が期待される。
1) H. Takahashi et al., Chem. Mater. 2000, 12, 3301.
2) T. Itoh et al., Bioconjug. Chem. 2006, 17, 236.
3) T. Itoh et al., J. Mater. Chem. 2011, 21, 251.
渋屋祐太・山口 央 茨城大学理学部