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マイクロバブル・ナノバブル(MNB) 手法による有機合成

 気相-液相(-固相)反応は有機合成化学において重要な反応様式の1つであり,反応後に気体を容易に取り除けるためシンプルかつクリーンである。しかし,気相の液相への溶解性が低いため,高圧下で激しい撹拌を必要とする場合が少なくない。気相-液相(-固相)反応を効率化する有機合成手法としてMNB を活用した例が最近報告されたので紹介する。
 MNB は数十mm ~数百nm の直径を有する微細気泡と定義され,数百mm 以上の気泡とは異なる性質をもつ。これまで流体工学,環境工学,水産学などの分野で研究されてきたが,有機合成化学的に用いた研究報告例は2010 年までなかった1)。その後,少流量の微細気泡発生装置の開発により研究室レベルでの検討が可能となり,現在では(1)アルコールの空気酸化反応2),(2)アルケンまたはニトロアレーンの水素還元3),(3)アントラキノン法による過酸化水素のワンポット合成4),(4)光励起一重項酸素を用いた酸化反応5)など,有機素反応や有用物質の合成へ展開されている。MNB による手法はフィルターを用いた一般的なバブリング手法より反応効率が良い。また,必要とする気体量も全流量(120 mL/min)に対してわずかである(3 ~ 5 mL/min)。これらの特長は溶存気体濃度を飽和状態に維持できることに起因しており,反応により溶存気体が消費されても,液相に存在するMNB が連続的に溶存していくためと考えられる。
 今後,本手法を追究することにより気相-液相(-固相)反応における効率的な有機合成システムとして一般化されることが期待される。

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1) N. Mase, et al., 日本プロセス化学会サマーシンポジウム2010, 1P-32.

2) N. Mase, et al., Chem. Commun. 2011, 47,2086.

3) a) N. Mase, et al., Synlett 2013, 24, 2225. b) 特願2011-158551, 2012-140292.

4) 特願2013-152163.

5) 特願2014-46542.

間瀬暢之 静岡大学大学院