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二光子励起顕微鏡で捉える硬い骨の中の生命現象

 生体内における細胞機能は,同種・異種の細胞間ネットワークにより緻密に制御されている。したがって,細胞機能の本質的な理解のためには,動物個体内における細胞やタンパク質のイメージング技術が重要となる1)。とりわけ,二光子励起顕微鏡は生体透過性の高い励起光(700-1000 nm)を利用するため,より深部(最大1 mm)の細胞動態を解析可能である2)。これらの利点を生かし,硬い骨の中の生命現象を可視化する研究が近年活発になされている。
 筆者らは,pH 感受性蛍光プローブ(BAp-E)を開発し,破骨細胞による骨溶解の生体イメージングに成功している3)。プローブの蛍光性は光誘起電子移動により制御されており,骨吸収時の酸性環境下では電子移動が抑制されるためプローブの蛍光が観察される。さらに,骨組織への高い親和性を有するビスホスホネート基により,標的細胞周辺へのプローブ送達を達成している。

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 ごく最近,Lin らは,二光子りん光寿命顕微鏡とデンドリマー型白金ポルフィリン錯体(PtP-C343)を用いて,マウス骨髄内の酸素分圧を計測した4)。その結果,骨髄内は血管密度が高いにもかかわらず,低酸素状態(< 32 mmHg)であることを明らかにした。骨髄細胞の代謝により酸素が消費され,骨髄内を低酸素環境にしていると指摘している。
 酵素活性や周辺環境の変化を読み取ることができる機能性分子プローブと二光子励起顕微鏡を組み合わせることで,ありのままの細胞機能の更なる理解が進むことが期待される。

1) R. Weissleder et al., Nature 2008, 452, 580.

2) F. Helmchen et al., Nat. Methods 2005, 2, 932.

3) T. Kowada et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 17772.

4) J. A. Spencer et al., Nature 2014, 508, 269.

小和田俊行 大阪大学免疫学フロンティア研究センター