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後天的ゲノム修飾の新規分析手法

 哺乳類ではプロモーター領域のCpGアイランドのシトシンがメチル化され,5'-メチルシトシンになることにより,遺伝子の発現が制御されている。このような後天的なゲノム修飾(エピジェネティクス)は,細胞の分化・発生だけでなく,ガンなどの疾患にも強く関わることが明らかになってきた。このため,網羅的解析法から,任意領域の迅速計測法など,様々なメチル化DNA 計測法が提案されている。特に,バイサルファイト反応を利用しない迅速かつ正確なメチルシトシン測定法に注目が集まっている。
 ナノポア(直径がナノメートルスケールの細孔)を利用したシーケンシング法によるメチルシトシン検出が提案されている。膜タンパク質の一種であるα -ヘモリシンが有するナノポアによって隔てられた両端に電圧を印加し,このナノポアをDNA 鎖が通過する際の電流値の減少量の違いから塩基を同定する手法である。アデニン,チミン,グアニン,シトシンの違いだけでなく,メチルシトシンとの違いも区別できるとしている1)。さらに,Si3N4 やAl2O3 の微細加工により作製したソリッドステートナノポアを用いても,メチル化の判別が可能であると報告されている2)
 抗メチルシトシン抗体を用いたシーケンス選択的なアッセイ方法についても検討されている3)。測定対象の1本鎖DNAと2 本鎖を形成し,かつ,測定対象のシトシンのみがバルジ(2本鎖DNA の1塩基飛び出し領域)内に配置されるように設計されたプローブDNA とハイブリダイゼーションさせた後,この2本鎖DNA への抗体の結合量を測定する。グアニンと塩基対を形成したメチルシトシンは2本鎖の内側を向いているため嵩高い抗体には全く認識されないが,バルジ内に配置されたメチルシトシンは2本鎖DNA の外を向いている時間を有しているため,抗メチルシトシン抗体に高効率に認識されることを利用し,任意シトシンのメチル化検出を行っている。

1) J. Clarke et al., Nature Biotech. 2012, 4, 265.

2) J. Shim et al., Scientific reports 2013, 3, 1389.

3) R. Kurita et al., Anal. Chem. 2012, 84, 7533.

栗田僚二 産業技術総合研究所