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古くて新しいバイポーラ電気化学

 バイポーラ電極(電気化学セル内でワイヤレスな導体が陽・陰極を有する電極として動作する現象)は,積層することで実効電極面積を拡張できるため,工業電解などに用いられてきた。最近,バイポーラ電極の新しい応用として,バイポーラ電極表面に生じる電位分布を巧みに利用した電気化学センサーや機能材料などが開発されている。古くから知られている電気化学現象にパラダイムシフトが起きている。
 板状バイポーラ電極に発生させた電位勾配は,電極に固定化した導電性高分子に"転写" することができ,傾斜的な電気化学ドーピング(エレクトロクロミズム)並びに分子変換が報告された1)。また,駆動電極系の工夫により,バイポーラ電極上の電位分布を自在に制御することもでき,新しい電気化学パターニング法として発展した2)。バイポーラ電極表面の電位分布を利用し,金属触媒の濃度勾配を発生させることもできる。すなわち,バイポーラ電極の陰極部分でCu(II)イオンを還元しCu(I)を発生させると,電位分布に応じたCu(I)の濃度勾配が生じる。これを触媒とした有機反応により電極表面を傾斜的に修飾することができ,表面特性の簡便な制御が可能であった3)
 ごく最近では,傾斜ポリマーブラシや微粒子の二官能化なども報告され,バイポーラ電気化学は機能材料創製における強力なツールとして注目されている。

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1) S. Inagi et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2013, 52, 6616.

2) Y. Ishiguro et al., J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 4034.

3) N. Shida et al., ACS Macro Lett. 2012, 1, 656.

稲木信介 東京工業大学大学院総合理工学研究科