日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >高分子 >高分子の「かたち」と「はたらき」: 高分子トポロジー化学

高分子の「かたち」と「はたらき」: 高分子トポロジー化学

 高分子のやわらかな「ひも」状セグメントで組み立てられる「かたち」には,限りない設計の自由度がある。特に近年,単環状・多環状構造高分子の高効率合成プロセスが次々に提案され,そのユニークな「かたち」に起因する新奇特性・機能の探索が進められている1)。とりわけ,好熱性古細菌の細胞膜に想を得た両親媒性環状高分子ミセルによる顕著な耐熱・耐塩性能の改善は,自己組織化により「増幅」する高分子の「トポロジー効果」として注目される2)
 複雑な環状高分子トポロジーを構築する手法として,イオン性高分子前駆体(テレケリクス)による自己組織化と共有結合への変換に基づくESA-CF 法,これに最新の有機合成手法(Click 法,Metathesis 法)を組み合わせたプロセスが開発された3)。このESA-CF 法を用いる,四環三重縮合トポロジー(K3,3 グラフ構造)高分子の合成が達成された4)。長鎖(C-20)アルカンジオールをセグメント成分とするカチオン性六官能分枝状テレケリクスに,2 単位の三官能カルボン酸対アニオンを導入し,この高分子イオン集合体を希釈下で加熱して共有結合化すると,高分子構造異性体となるK3,3 グラフ高分子と「はしご型」高分子が生成する。ここでK3,3 グラフ高分子の三次元サイズ(流体力学的体積)は著しくコンパクトになり,リサイクルSECによる分別・単離が達成された。このK3,3 グラフ構造は,「非平面グラフ」としての幾何学特性が知られ,また,薬理活性を示す環状オリゴペプチドのジスルフィド結合による内部架橋様式ともトポロジー的に等価である。
 「高分子トポロジー化学」は,基礎数学と高分子化学との協同による研究領域であり,本年度から数学研究者を代表とする共同研究が,科研費特設分野研究「連携探索型数理科学」として開始している。これを奇貨として学際的基礎研究が大きく進展することを期待したい。

chem-67-10-04.jpg

1) Y. Tezuka, Ed., Topological Polymer Chemistry: Progress of cyclic polymers in synthesis, properties and functions, World Scientific, Singapore, 2013.

2) S. Honda et al., Nat. Commun. 2013, 4, 1574.

3) N. Sugai et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 19694.

4) T. Suzuki et al., J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 10148.

手塚育志・山本拓矢 東京工業大学大学院理工学研究科