日本化学会

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液滴衝突の分光観測

 微量の液体を用いて溶液の化学反応を観測する手法が発展している。微細な流路に溶液を流す手法が一般的であるが,液滴を利用する手法もある。デバイス内に多数の微小液滴を用意する方法については本欄においても紹介されている1)
 一方,気相中の液滴は,インクジェットプリンタにみられるように生成タイミングや速度を精密に制御することができるため,反応観測のツールとしての利用が期待できる。酒井らは液滴の衝突過程を精密に測定し,粘度測定などの液体の物理的解析を行っている2)。本稿では,液滴衝突にレーザー分光法を組み合わせ,液滴衝突による反応初期過程を精密観測する筆者の取り組みについて紹介する。エタノールと水の液滴を衝突させて形態の時間変化を精密に観測したところ,水液滴側に特徴的な微小突起が生成することを発見した3)。画像の解析から,衝突点での水の表面張力解放によって表面に歪みが生じ,それが対極へ伝播して微小突起となると考えた。微小突起にパルスレーザー光を照射してラマン散乱光の画像とスペクトルを同時観測し,水・エタノール単一液滴の結果と比較した結果,微小突起は水からなることがわかった。これはモデルの妥当性を示している4)
 今後は,液滴衝突の分光計測によって溶液混合に伴う化学反応過程の高速・詳細な観測を実現したいと考えている。

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1) 福山真央, 火原彰秀, 化学と工業 2014, 67, 509.

2) 酒井啓司, パリティ 2008-09, 23, 24.

3) J. Kohno, M. Kobayashi, T. Suzuki, Chem.Phys. Lett. 2013, 578, 15.

4) T. Suzuki, J. Kohno, J. Phys. Chem. B 2014, 118, 5781.

河野淳也 学習院大学理学部化学科