特定の分子と特異的に結合する一本鎖DNA(DNA アプタマー)は診断試薬や分子認識素子としての様々な応用が期待されている。DNA アプタマーを見つけ出すには,~ 1015 もの配列パターンを有するDNA ランダムライブラリーと対象分子とを混合し,その後,対象分子- DNA複合体を分離・分取し,PCR 増幅する必要がある。この一連の操作(ラウンド)を繰り返すことにより,結合能及び選択性の高いアプタマーが抽出できる。このアプタマー選抜法はSELEX法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential enrichment)として知られる。複合体の分離にはフィルター結合法やアフィニティークロマトグラフィーが用いられるが,多量の試料溶液や長い操作時間(多数回のラウンド)を必要とすること,自動化が困難なことが問題であった。これらを解決するために新規分離手法の開発が進められている。
Lou らは,マイクロ流体チップを用い,強磁性ニッケルで微細加工された流路内で,ボツリヌストキシン固定化磁性粒子とライブラリーとを磁場勾配を用いて分離し,一ラウンドでの選抜を可能とした1)。Wang らは,直列方向の2 箇所アルブミン(非対象分子)及びミオグロビン(対象分子)固定化粒子を充填したマイクロチップを作成し,非特異的結合をするDNA の除去と通常の選抜を一度の操作で行っている2)。一方,Nie らはボロン酸アフィニティーモノリスカラムを作成し,ボロン酸と糖鎖との可逆結合を利用し,糖タンパク質の固定相への着脱を制御して,糖タンパク質に特化した選抜に挑戦している3)。
このように近年ではチップ化・多機能化する方向の研究が多く見られる。依然として抱える問題は,分離媒体とDNAとの非特異的結合を確実に防ぐ方法論がないことや,対象分子の固定化操作が煩雑なことであり,これらの改善も今後求められるだろう。
1) X. Lou et al., PNAS 2009, 106, 2989.
2) Q. Wang et al., Anal. Chem. 2014, 86, 6572.
3) H. Nie et al., Anal. Chem. 2013, 85, 8277.
齋藤伸吾 埼玉大学大学院理工学研究科