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リガンド解離型光親和性プローブ

 強力な活性を示す有機小分子(リガンド)の標的分子同定は,ケミカルバイオロジーの重要な課題である。リガンドに芳香族アジド,ジアジリンなど光反応基を導入すれば,標的分子と共有結合を形成できる。このような光親和性ラベル化法は,標的分子-リガンド間の相互作用が弱い,標的分子が重合して動的に不安定,結合する内在性因子が多いなどの場合にも有効である。筆者らは光親和性ビオチンプローブを用いて,抗腫瘍性天然物アプリロニンA がアクチン・チューブリン間のタンパク質間相互作用(PPI)を誘導することを解明した1)
 一方で,分子サイズ,極性,クロマトグラフィーでの挙動など,リガンドの性質によっては,結合した標的分子やその酵素消化物の回収率が低い場合がある。そこで注目されるのが,リガンド解離型の光親和性プローブである。例えば,リンカーにジスルフィド結合を挟んで,光反応後に還元的に切り出す1 のような方法がある2)。一方で,富山大の友廣,畑中らにより,ο -ヒドロキシ桂皮酸誘導体2 を用いるユニークな方法が,最近報告された3, 4)。このプローブは,紫外光の照射のみで,標的分子との共有結合形成とオレフィンのEZ 異性化に伴う分子内環化が起こる。その結果,リガンドが解離し,標的分子には蛍光基であるクマリンタグのみが残る。実例として,ダイズ選別輸送受容体のペプチドリガンドを誘導したプローブを用いて,蛍光タグの結合位置が決定された。

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 本手法をはじめとする,光親和性プローブを用いた標的分子の同定・解析法がさらに高感度化,簡便化されれば,細胞内, 生体内でのin situ ラベル化や,PPI 誘導リガンドを用いた細胞機能の時空間制御など,様々な用途に応用できると期待される。

1) M. Kita et al., J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 18089.

2) Y. Chen et al., Science 1994, 265, 90.

3) S. Morimoto et al., Chem. Commun. 2013, 49, 1811.

4) T. Tomohiro et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2013, 23, 5605.

北 将樹 筑波大学数理物質系