らせん構造はDNA やタンパクのα ヘリックスなど生体高分子に広く見られる構造である。それらのらせん構造には,ヘリシティー(右巻き・左巻きの別)やピッチが異なるいくつかの種類が知られており,構造的特徴に応じて異なる働きをしている。複数の異なる状態を取り得る人工らせん分子も,ヘリシティーや構造的特徴によって異なる機能を示すと考えられ,キラル機能の多段階制御などに応用できる可能性がある。筆者らはこれまでに様々ならせん型錯体を合成し,配位結合の可逆性を活かした動的ヘリシティー制御について研究を行ってきた1)。今回,らせん型錯体の金属を段階的に交換していくことで,ヘリシティー反転を複数回,連続的に起こすことに初めて成功した。
らせん型錯体の多段階の構造変換は,直鎖状多座配位子への金属の段階的な導入や,金属の親和性の序列に基づく金属交換により行った。これにより,LZn3 →LZn5 → LZn3Ba → LZn3La の3 段階の変換を実現した。また,この変換過程は, 右(LZn3) → 左(LZn5)→右(LZn3Ba)→左(LZn3La)のように3 回のヘリシティー反転を伴っていた。直鎖状多座配位子の骨格にはキラル置換基(S-2-ヒドロキシプロピル基)を導入しているが,そのヘリシティー制御効果はそれぞれの変換の前後で逆となっていた。そのため,異なる金属(Zn2+,Ba2+,La3+)を順に加えていくことで連続的な3 回のヘリシティー反転を実現できた2)。本研究成果は分子機能の多段階制御のための有用な知見となると考えられる。
1) S. Akine, S. Hotate, T. Nabeshima, J. Am.Chem. Soc. 2011, 133, 13868.
2) S. Akine, S. Sairenji, T. Taniguchi, T. Nabeshima, J. Am. Chem.. Soc. 2013, 135, 12948.
秋根茂久 金沢大学理工研究域物質化学系