日本化学会

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進化する塩橋機能:初の金属化

 塩橋は,異分野で複数の意味を持つが,生化学分野では,酸・塩基によるイオン性の水素結合を指す。そして,古くから優れた生体機能の発現に,塩橋が大きな役割を果たすと考えられてきた。有機結晶は,そのような塩橋が担う役割を単純な分子系を用いてモデル化することにより,その機能発現のメカニズムの本質を理解するのに極めて有効な場を提供できる。これまでにディビジョンでは,アミノ酸や酸・塩基2 成分から成る塩橋型超分子の設計により,キラル分子のキラル識別能1, 2)や,超分子キラリティーの制御3)など,生体系へもフィードバックできる興味深い知見を得てきた。それに加えて,近年では,機能をさらに進化させて,塩橋を電子物性のコントロールに用いる研究が盛んに行われている。その心は,塩橋が配列制御のみならず,物性発現自体に直接アプローチできる「優れもの」であることがわかってきたためである。その例として,塩橋ホストに空間制御された包接ゲストとの共結晶による多彩な発光特性4)や,塩橋結合に生じるプロトン欠陥を利用した共存ドナー分子へのホールドープ現象5)などがある。後者では,塩橋に共存する分子としてテトラチアフルバレン(TTF)を選択することにより,半導体特性を得ていた。最近,同原理を適用して,p 軌道の重なりがより大きいテトラチアペンタレン(TTP)を用いることにより,4 K の極低温においても安定な金属相を有する塩橋型有機金属の達成に成功した6)。これは電荷移動(CT)相互作用,伝導性高分子に次ぐ第3 番目の有機金属合成法である。

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初の塩橋型有機金属分子

1) K. Megumi et al., Cryst. Growth Des. 2012, 12, 5680.

2) K. Kodama et al., Cryst. Growth Des. 2014, 14, 3549.

3) T. Sasaki et al., Nat. Commun. 2013, 4, 1787.

4) T. Hinoue et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 155.

5) Y. Kobayashi et al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 9995.

6) T. Terauchi et al., Chem. Commun. 2014, 50, 7111.

小林由佳 (独)物質・材料研究機構