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活性種の分類を超えた高分子合成戦略

 高分子を生成する連鎖重合においては,ビニルモノマーの構造に応じて反応中間体(活性種)を選択し,ラジカルやカチオン,アニオン重合などに分類される。近年,様々な重合において,重合の生長末端の不安定な活性種を一時的にドーマント種と呼ばれる安定な共有結合種に変換することで,副反応の抑制されたいわゆるリビング重合系が見いだされている。このような"ドーマント種による一時的な活性種の安定化(不活性化)"は,連鎖重合の副反応を制御し,リビング重合を達成するための一般原理となり,様々な機能性高分子材料の簡便な合成ツールとなってきている。
 筆者らは,ドーマント種の概念を,単に副反応の制御に用いるだけではなく,異なる反応中間体への可逆的な変換の媒介として用いることで,これまでの活性種による分類を超えた全く新しい共重合体が自在に設計できるようになるのではないかとの着想に至った。実際に,リビングラジカル重合によく用いられてきた炭素-硫黄結合をドーマント種として,ルイス酸によるカチオン重合と同時に行う触媒系を設計することで,非選択的,可逆的にこれらの活性種が生成し,まるで小説のジキル博士とハイド氏のように2 つの性格をランダムに行き来して1 本のポリマー鎖を生成する新規な相互変換型リビングラジカル/カチオン共重合系を開発することに成功した1)。このような活性種にとらわれない新しい共重合体合成の概念は,従来のモノマー構造由来の反応機構による分類を超えた高分子材料の開発に繋がると期待される。

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1) H. Aoshima, M. Uchiyama, K. Satoh, M. Kamigaito, Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 10932.

佐藤浩太郎 名古屋大学大学院工学研究科