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メタマテリアル

 メタマテリアルとは,電磁波(光)の波長よりも細かな構造体を利用して,物質の電磁気学(光)的な特性を人工的に操作した疑似物質である。メタマテリアルは,マイクロ波周波数から光波までの幅広い領域に渡る技術である。特に光学領域では,メタマテリアルを用いることでこれまで1.0 に固定されていた比透磁率の値も制御できるようになる。そして,透磁率と誘電率の両方を同時に負の値に制御することで,負の屈折率を持つ物質を作り出すことが可能となる。メタマテリアル研究が活発化した1 つの要因は,2000 年にPendry が負の屈折率物質を利用すれば,光の回折限界を超えていくらでも細かな構造を観察できる「完全レンズ」を実現できることを示したことである1)。それ以降,光学迷彩2)や完全吸収体3)の実現など様々な提案が報告されている。
 メタマテリアルを実現する際の難しさは2 つある。1 つはメタマテリアルの構造は光波の波長よりも十分に細かくなければならないことで,これは特に可視光など波長の短い光を扱う際に顕著になる。もう1 つは,メタマテリアルの構造を三次元的に集積しなければならないことである。これは従来の微細加工技術が不得意とする点である。近年,三次元メタマテリアルを実現するための加工技術がいくつか提案され,ようやく立体的なメタマテリアルを数mm ~数mm サイズで加工できるようになってきた4, 5)

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1) J. B. Pendry, Phys. Rev. Lett. 2000, 85, 3966.

2) J. B. Pendry, et. al, SCIENCE 2006, 312, 1780.

3) M. Laroche, et. al, Phys. Rev. Lett. 2006, 96, 123903.

4) Y. Cao, et. al, Small 2009, 5, 1144.

5) C.-C. Chen, et. al, Adv. Opt. Mater. 2015, 3, 44.

田中拓男 理化学研究所