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炭素鎖のコンフォメーションを制御するアセンブリーライン合成

 自然界では,炭素鎖伸長や官能基変換などの一連の反応を繰り返すことで,脂肪酸やポリケチドを生合成している。最近Aggarwal らは,この"アセンブリーライン合成" をフラスコ内で実現するプロセスを開発した1)。ボロン酸エステル1 とかさ高いベンゾエートが配位したリチウム試剤(S)-2 との反応でボレート3が生じる。置換基Rの転位とベンゾエートの脱離により,2 の光学純度を損なわずに炭素を伸長したボロン酸エステル4を合成できる2)。得られた4 (S)-2 との反応を繰り返し,10 連続のメチル基の立体化学を制御した5 を合成した。また,各ステップで用いる(S)-2/(R)-2を選択することで,メチル基の立体化学を改変した分子群(67 等)の合成に成功した。メチル基の立体化学がall-anti型の5 では規則的な特定のコンフォメーションを持たない柔軟な構造となるのに対し,all-syn6 syn-anti 繰り返し型7 では,らせん状,直線状の構造がそれぞれ優先的に形成されることを見いだした。炭素鎖に隣接するメチル基立体化学の精密制御により,特異な三次元構造を形成する中/高分子を合理的に設計・合成できる可能性が示された。シンプルで均質な構築ブロックを繰り返し連結するアセンブリーライン合成によって開拓される未踏の分子技術・科学の発展が期待される。

1) M. Burns et al., Nature 2014, 513, 183.

2) D. Leonori, V. K. Aggarwal, Acc. Chem.Res. 2014, 47, 3174.

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大栗博毅 東京農工大学大学院工学研究院
応用化学部門・JST さきがけ研究員(兼任)