イオンチャネルは細胞膜における高度な情報伝達を担う膜タンパク質であり,創薬の主ターゲットでもある。特に近年は,致死性の薬物副作用を引き起こす心筋のhERG カリウムチャネルの問題から,創薬においてイオンチャネル電流を評価することの重要性が高まっている。現在は,生体膜中のイオンチャネルを対象とするパッチクランプ法が主に用いられているが,細胞状態の影響を受けやすい等,問題点も多い。
脂質二分子膜にイオンチャネルを包埋した人工細胞膜センサは,薬物作用の新評価系として期待されてきたが,二分子膜の脆弱性やチャネル包埋の難しさがボトルネックとなっていた。筆者らは,半導体微細加工技術を用いて滑らかな縁部を持つような微細孔をシリコンチップ中に作製し,その孔中で脂質二分子膜を形成することにより,膜の耐久性と機械的強度とを著しく向上できることを見いだした1)。さらに,Chinese hamster ovary 細胞に発現させたhERG チャネルを抽出してこの膜中に包埋することにより,~60 時間にわたるhERG チャネル電流の記録と薬物作用の評価に成功している2)。
一方,de Planque らは,無細胞タンパク質合成系の利用によるイオンチャネルの自動組込について検討している。彼らは,油中に存在する2 個の水滴間に形成される脂質二分子膜を用い,その片側の水滴を無細胞タンパク質発現溶液にすることにより,hERG チャネルの部分配列を膜中に組込むことに成功した3)。現在はチャネルの部分配列しか組み込めないが,今後の進歩によりチャネル全長の自動包埋も可能になると予想され,パッチクランプ法に相補的な薬物スクリーニング系として脂質二分子膜センサが大きく発展するものと期待される。
1) A. Hirano-Iwata et al., Langmuir 2010, 26, 1949.
2) A. Oshima et al., Anal. Chem. 2013, 85, 4363.
3) M. R. R. de Planque et al., Analyst> 2013, 138, 7294.
平野愛弓 東北大学大学院医工学研究科
CREST,JST