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窒素固定酵素ニトロゲナーゼの活性部位はFe かMo か?

 レンゲソウなどのマメ科植物では根に根粒を形成し,その中で窒素を酵素ニトロゲナーゼが還元しアンモニア態窒素に変換し窒素固定を行っている1)。この窒素固定に関わる酵素のうち,モリブデン含有型酵素では活性部位にFeMoco という[Mo-7Fe-6S]クラスター構造を有しておりここで窒素固定が行われている。しかし窒素を結合し活性化しているのはFe かMo かはメカニズムを含めてまだ明らかではない。そのためニトロゲナーゼの真の活性部位を探索する研究が多くの研究者によって進められており,最近モデル系を用いた非常に注目すべき論文が2 つのグループから報告された。
 1 つは米国のHolland らによるもの2)で,Fe の三核錯体が窒素分子を切断し,生成したニトリドをアルカリ金属イオン(Na, K, Rb)が安定化しているというものである。そして塩酸の添加でアンモニアを生成している。彼らは窒素はアルカリ金属よりも3 つの低原子価Fe(I)によって活性化されると報告している。これはハーバー・ボッシュ法で窒素がFe の(111)面で活性化され,助触媒としてK が使用されることを考えたとき非常に興味深い結果であったが,残念ながらアンモニアの生成は量論程度であった。
 もう1 つは西林らの論文3)で,P 系の三座型キレート配位子を用いたMo 二核錯体によるものであり,窒素固定を行ったところ常温常圧下で最高63 当量というチャンピオンデータを達成している。これらの結果はニトロゲナーゼの活性部位がFe なのかMo なのかの解に迫るものであり非常に興味深く,今後の成り行きが注目され目を離せない。

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1) 増田秀樹, 福住俊一編著, 錯体化学会選書1「生物無機化学」2005, 276.

2) P. L. Holland et al., J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 16807.

3) Y. Nishibayashi et al., J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 5666.

増田秀樹 名古屋工業大学工学研究科