日本化学会

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直接アリール化反応の高分子合成への応用

 C-H 結合の直接官能基化反応は,化学修飾の工程を削減できる有用な合成手法として注目を集めてきた。これらの反応を天然物合成に応用することで,合成工程の大幅な削減が可能となる1)。近年,芳香族化合物の直接アリール化反応を利用したp 共役高分子の新たな合成法が開発されている。この方法を用いることで,高分子の末端にスズなどの金属(M)が残存しなくなるうえ,脱離成分がHBr 等の無機酸になるために高分子からの除去が容易になる。一般的に小分子よりも高分子の精製の方が困難であることから,直接アリール化反応を利用するメリットは高分子合成の方が大きい。その一方で,高分子合成に適応させるためには高い結合形成効率(95%以上)や高い選択性が必要となる。これは結合形成効率が分子量を決め,副反応によって生じた構造欠陥は高分子から取り除くことができないためである。2010 年に滝田,小澤らはPd 触媒による直接アリール化重縮合によって,高分子量のポリ(3 -ヘキシルチオフェン)の高選択的合成を報告した2)。一方筆者らは,Pd 前駆体にリン配位子を添加しない高活性な触媒系を用いた重縮合反応を開発してきた3)。ごく最近,Ar1 同士のホモカップリング反応が,触媒前駆体のPd(II)錯体が触媒活性種であるPd(0)に変換される過程で生じることを明らかにした4)。高分子の構造欠陥抑制には,錯体化学レベルの基礎的な検証が重要であることを示した。

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1) J. Yamaguchi et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 8960.

2) Q. Wang et al., J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 11420.

3) J. Kuwabara et al., J. Synth. Org. Chem., Jpn. 2014, 72, 1271.

4) J. Kuwabara et al., Org. Chem. Front. 2015, 2, 520.

桑原純平・神原貴樹 筑波大学数理物質系