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分子配列のねじれと巨大超構造

 自然は時に精妙かつ美しい造形を見せる。高分子・液晶などが示すジャイロイド構造もその1 つである。一枚の境界面が空間を二分しており,それぞれに3 分岐の結節点をもつジャングルジムが存在している。これほど複雑かつ美しい構造の起源は何だろうか。

 分子の相溶性に注目した相分離描像では,分子的詳細を無視した連続体理論が確かにこの構造が安定であることを予想するし1),低分子液晶においても実験的な証拠がある2)。しかし,これらは「なぜ」には答えていない。境界面に注目して,石鹸膜のような極小曲面に起源を求めると結晶化の平均場理論が局所的に同じ構造をもつ極小曲面からジャイロイド構造が選ばれる理由を教えてくれる2)

 近年,アキラルな分子がキラルな液体を作ることが明らかにされた3)。実は,ジャイロイド構造の2 つの空間領域は互いに対掌体の関係にある。最大エントロピー法を用いて明らかにされた分子配列は,ロッドに沿って結節点から結節点へと,分子の配向が,連続的に約70°ねじれている4)。2 つの空間領域ではねじれの方向は当然,互いに逆である。

 アキラルな棒状分子を並べたとき,並行構造が最安定だと早合点しがちであるが,アキラルであることは対称であることしか保証しない。むしろ不安定であることが多いといえる。分子配列における対称性の「自発的破れ」によるメゾスケールでの「相分離」がジャイロイド構造の安定性のミクロな起源といえそうである。

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1) L. Leibler, Macromolecules 1980, 13, 1602.

2) S. Kutsumizu et al., Liq. Cryst. 2002, 29, 1459.

3) K. Saito et al., J. Phys. Soc. Jpn. 2008, 77, 093601.

4) L.E. Hough et al., Science 2009, 325, 452.

5) Y. Nakazawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 2012, 81, 094601.

齋藤一弥 筑波大学