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タンパク質-タンパク質間相互作用を阻害する低分子剤開発の最先端

 低分子医薬品開発における魅力的な標的として,疾患に関連するタンパク質︲タンパク質間の相互作用(PPI)が注目されている。その中で,PPI 界面が「比較的小さく,かつ明瞭な二次構造を有するタイプ」については,近年阻害剤開発技術が急速に発展している(図)1)

 種々のヒト腫瘍で関与しているPPI として,Wnt シグナル伝達経路におけるβ -catenin/BCL9 複合体や,プロテアソーム経路におけるp53/hDM2複合体は,有力な標的PPI として注目されている2, 3)。BCL9 やp53 の相互作用部位はα -helix が主要骨格であるため,それを模倣すべくN-phenyl-[1,1′-biphenyl]-3-carboxamide2)N-alkylated aromatic oligoamide3)などを主骨格に,適切な官能基を付加することで効果的なPPI 低分子阻害剤の設計を試みている。このように,α -helix を模倣した主鎖と官能基の立体配置のデザインによるPPI 阻害剤設計が,現在のところ主要なコンセプトとなりつつある(図)。

 しかしPPI 界面は「明瞭な二次構造を有するタイプ」のみではないことは自明である。今後は「相互作用界面の広いタイプ」や「明瞭な二次構造がない界面タイプ」の低分子阻害剤開発に取り組まなければならない(図)1, 4)。PPI 阻害剤開発において,パラダイムシフトを起こしうるような戦略が,今まさに求められている。

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1) N. London, et al., Curr. Opin. Chem. Biol 2013, 17, 952.

2) L. R. Hoggard, et al., J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 12249.

3) A. Barnard, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 127, 3003.

4) Y. Bai, et al., Protein Cell 2015, 6, 924.

長門石曉・津本浩平 東京大学大学院工学系研究科