最近「電子を触媒として活用する」ラジカル反応が注目を集めている1)。
電子移動が関与する連鎖型ラジカル置換反応として,S RN1 反応が古くから知られていたが,最近,穏和な条件下で電子を反応系に供給することで可能となる反応が報告された。例えば,白川/林らはベンゼン類のヨウ化アリールによるアリール化反応を塩基存在下に達成している(Scheme 1)2)。この反応では1,10-phenatholine/NaOt-Bu から電子が供給され,これを受けたヨウ化アリールからアリールラジカルが生成し,その後ベンゼンへ付加し,続く塩基による脱プロトン化によってアニオンラジカルが生成し,これよりヨウ化アリールへ再び電子が移動することで触媒サイクルが形成されたと考えられる。BHAS(Base-promoted Homolytic Aromatic Substitution)3)と呼ばれるこの反応の応用範囲は極めて広い。
さらに,最近,光照射によるヨウ化アリールのアミノカルボニル化反応が柳らにより報告された(Scheme 2)4)。このタイプの反応は従来パラジウム触媒を用いて実施されてきたが,ここでは電子を中心とした触媒サイクルで反応が進行していると考えられる。
電子を触媒として活用する反応は究極のグリーンな反応であり,更なる発展が期待される。
1) a)白川英二,有機合成化学協会誌 2013, 71, 526; b)A. Studer, D. P. Curran, Nature Chem. 2014, 6, 765.
2) E. Shirakawa, T. Hayashi, et al., J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 15537.
3) BHAS 反応の先駆的な例:K. Itami, et al., Org. Lett. 2008, 10, 4673.
4) I. Ryu, et al., Chem. Eur. J. 2015, 21, 14764.
川本拓治 山口大学大学院医学系研究科