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ポストインプリンティング修飾による分子インプリントポリマーの新潮流

 分子インプリントポリマー(MIP)1)は,標的分子あるいはその誘導体と機能性モノマーの複合体を共有結合/非共有結合にて形成し,架橋剤とともに重合した後,標的分子を除去することで得られる標的分子に対する結合空間を持つ分子認識材料である。安価・安定に大量生産できることから,高価で不安定な生体材料に替わる材料として注目されている。しかし,従来のMIP は,一旦合成するとその後の機能変換・調整が困難な単機能性のものが多く,生体分子の持つ精緻かつ多様な機能には及ばず,大きく発展するまでには至っていない。

 タンパク質は,ポリペプチド合成とそれに続く翻訳後修飾により生合成され,高い機能性を獲得している。最近,この合成と機能付与が分離された生合成戦略をMIP 合成に適用する試みが行われている 2~5)。すなわち,相互作用部位とは別に,修飾可能なアミノ基や可逆的切断可能なジスルフィド基を予め導入した機能性モノマーにより形成した鋳型分子複合体を用いてMIPを合成すると,その機能性モノマー由来のアミノ基や鋳型分子切断後に生じるチオール基は,鋳型空間内のみに配置されることになる。これらを化学修飾することで,鋳型空間内のみに新たな機能性を創出できる。この選択的in-cavity 化学修飾(ポストインプリンティング修飾と呼ぶ)を用いることで,結合特性の制御・結合情報の可視化・分子認識能のスイッチングなど,従来法では達成できなかったMIP の実現が可能となり,抗体と同等の感度を持つMIPも報告され始めている。今後,抗体では対応できない親水性/疎水性抗原や毒物に対する分子認識材料へMIP を適用することにより,抗体の代替としての実用化が期待される。

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1) T. Takeuchi, et al., Molecularly Imprinted Polymers in Biotechnology, Springer 2015, 95.

2) K. Takeda, et al., JACS 2009, 131, 8833.

3) T. Takeuchi, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 12765.

4) H. Sunayama, et al., Chem. Commun. 2014, 50, 1347.

5) Y. Suga, et al., Chem. Commun. 2013, 49, 8450.

竹内俊文・北山雄己哉 神戸大学大学院工学研究科