電子励起された分子は,蛍光やりん光の放出を伴う輻射過程または発光を伴わない無輻射過程により,電子基底状態へと失活する。このとき,エネルギー的に可能なすべての無輻射失活経路を理論的に特定できれば,分子の光応答を予測できる。しかし,予備知識を全く用いずにこれを行うことは難しかった。特に,原子数が30 を超える系や,ピコ秒オーダーよりも長い時間スケールで起こる過程に対して有効な手法は存在しなかった。
最近,反応経路自動探索法の1 つである人工力誘起反応法を拡張することにより,この問題の解決法が提案された1)。この技術を用いることで,ある電子状態から別の電子状態へと遷移するポテンシャル交差内エネルギー極小構造を自動探索することができる。得られた構造への到達のしやすさから,無輻射失活過程の効
率を議論できる。このとき,探索に化学的直感を必要としないのが大きな利点である。
ここで,芳香族炭化水素への応用例を示す2)。図中に示した×は,各分子に対して得られた最も速い無輻射失活過程の障壁と実測の蛍光量子収率との相関を示している。この相関は,この技術で無輻射失活経路を特定することで,蛍光量子収率の分子依存性を予測できることを示している。現在,光触媒の機構解明など,様々な応用が進められている。
ここで用いられている人工力誘起反応法は,このほか有機反応など多岐に応用されている。また,固体系への拡張など,更なる開発が活発に行われている。
1) S. Maeda, Y. Harabuchi, T. Taketsugu, K.Morokuma, J. Phys. Chem. A 2014, 118,12050.
2) Y. Harabuchi, T. Taketsugu, S. Maeda,Phys. Chem. Chem. Phys. 2015, 17, 22561.
前田 理 北海道大学 准教授
原渕 祐 北海道大学 CREST 研究員