二酸化炭素(CO2)は,穏和な臨界温度304.2K,臨界圧力72.8atm を持つ。超臨界CO2(scCO2)が低極性物質を溶解すること,そして,無毒,不燃性,低コスト,豊富に存在するといったCO2本来の利点が,scCO2を溶媒とした新規技術開発を後押ししている。現在では,ホップの抽出やコーヒー豆の脱カフェイン,めっき,発泡,洗浄,反応の溶媒として利用されている。しかしながら,scCO2は高分子や不揮発性極性物質に対して貧溶媒である。したがって,scCO2に「コロイド・界面化学のメス」を入れ,物質溶解性を改善することが求められている。
1990年に100 種以上の界面活性剤が試験されたこと1)を皮切りに,scCO2中で機能する界面活性剤が探索されてきた。残念ながら,炭化水素系界面活性剤のほとんどは不溶で,フッ化炭素化合物のようなファン・デル・ワールス力の弱い化合物が良溶解性であることが報告されている。近年では,"グリーンソルベント"にふさわしい界面活性剤を求めて,多分岐炭化水素鎖,エーテル,カルボニル,アミンなどの親CO2性基を組み合わせたCO2溶解性炭化水素系界面活性剤が開発されている2)。しかし,溶解性がいまだ低いことなど改善すべき課題が残る。更に開発を進めることにより,汎用性の高いscCO2分散系が構築できれば,酵素反応,染色,超微粒子合成など様々な有望技術に道が拓ける。また,原油増進回収(EOR)の効率化に向け,コロイド・界面化学的手法によりscCO2を増粘させる研究が進められている3)。高効率EORは,原油資源の延命につながり,非炭素エネルギー源に置き換わるまでの時間をより長く稼ぐだろう。
1) K. A. Consani, et al., J. Supercrit. Fluids 1990, 3, 51.
2) J. Eastoe, et al., Beilstein J. Org. Chem.2014, 10, 1878.
3) M. Sagisaka, et al., Langmuir 2015, 31,7479.
鷺坂将伸 弘前大学大学院理工学研究科