N,N-4-Dimethylaminopyridine(DMAP)は,アシル化反応を劇的に促進させる求核触媒として知られており,その不斉化は多くの研究者により精力的に研究されている1)。しかし,様々な触媒反応に適用できる不斉求核触媒は極めて限られる。また多くの場合,触媒の合成が煩雑(光学分割を経由)であり,触媒ライブラリーを構築するにはいささか不向きであった。このような背景の下,筆者らは多彩な構造をもつ不斉求核触媒をいかに簡便かつ迅速に合成するかに主眼をおき,様々な触媒反応への展開を目指して研究を行っている2~4)。安価に入手容易な(S)-1,1'-ビ-2-ナフトール[(S)-BINOL]を不斉源として,不斉求核触媒を設計,合成した4)。(S)-BINOL から触媒前駆体(鍵中間体)まで10g以上のスケールで合成可能であり,触媒合成の最終段階で様々な置換基(Ar)を導入できるため,構造多様性に富んだ触媒を迅速に供給できる(式1)。本触媒をごく少量(0.5mol%)用いることにより反応加速が起こり,不斉Steglich反応が高エナンチオ選択的に進行する(式2)。またカルビノールやdl-1,2-ジオールの速度論的光学分割反応,meso-1,2-ジオールの非対称化反応にも適用できるなど汎用性の高い優れた触媒である。劇的な反応加速効果と高エナンチオ選択性が発現する要因は,触媒の水素結合性置換基[-C(OH)Ar2]と反応基質の間に働く分子間相互作用(水素結合)が鍵となっていることを各種実験および分子軌道計算により明らかにした。
本触媒は東京化成工業株式会社よりすでに販売されており,様々な応用研究に容易に用いることができるため,医薬品や農薬などのファインケミカルの分野で応用研究が進展することが期待される。
1) R. P. Wurz, Chem. Rev. 2007, 107, 5570.
2) H. Mandai, et al., Org. Lett. 2012, 14, 3486.
3) H. Mandai, et al., Org. Lett. 2015, 17, 4436.
4) H. Mandai, et al. Nat. Commun. 2016, 7,11297.
萬代大樹 岡山大学大学院自然科学研究科