腹腔鏡手術は,体壁に作った小さな穴から手術器具を挿入して行う手術であり,痛みが少なく傷が目立たないなど,患者にとってメリットが大きい。病巣を直接手で触れることのできないこのような手術では,綿密な術前シミュレーションと術中に精確に臓器内部の病巣位置を執刀医に指し示すことのできるナビゲーションが大きな役割を果たす。しかし,X線CTやMRIの結果を基に,病巣の位置をナビゲーションシステムで表示できるようにするには,位置合わせの誤差が問題となる。そこで筆者らの研究グループは,各検査装置の造影剤と近赤外蛍光腹腔鏡で用いられる蛍光色素を同一の分子性カプセルに内包した生体マーキング剤(マーカー)を開発している。
分子性カプセルのサイズが大きく,カプセルが集密化されるほど,マーカーの注入箇所が識別されやすくなるが,その分,生体への毒性が懸念される。筆者らはこれまでに,細胞サイズで生体分解性の高い袋状脂質二分子膜であるジャイアントベシクル(GV)を分子性カプセルとして使用し,臨床用MRI造影剤である酸化鉄ナノ粒子をGVに濃密に内包した高感度MRI用マーカー1)や,X線CTと近赤外蛍光カメラで注入箇所をにじみなく視認できるGV凝集体型組織マーカー2)を開発した。内視鏡検査時にこれらのマーカーを病巣近傍に注入しておけば,位置合わせを行うことなく精確な腹腔鏡手術が可能となり,画期的な手術法となる。以上の成果は,藤浪真紀教授,林 秀樹教授,田村裕准教授(千葉大),青木伊知男博士(放医研)との共同研究で得られた。ここに謝意を表したい。
1) T. Toyota et al., Anal. Chem. 2012, 84, 3952.
2) H. Hayashi et al., Surg. Endosc. 2015, 29, 1445.
豊田太郎 東京大学大学院総合文化研究科