日本化学会

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光に向って自ら駆動する油滴

Phototactic Oil-droplet

表面を界面活性剤で覆われた水中の油滴では,表面の秩序性分子場と内部の流動性分子場の共存が自己集積的に実現されている。この特徴を活かすことで,分子レベルのダイナミクスを起点とし,階層的な巨視的ダイナミクスを示す生命現象にも通じる分子システムの実現が期待できる 1)
 最近筆者らは,紫外線応答型保護基である2︲ニトロベンジル基で保護されたケージドオレイン酸NBO を利用して,ミドリムシのように走光性のある自己駆動を示す油滴の構築に成功した 2)。紫外線照射によるNBO 光分解反応によって生じたオレイン酸/オレートは,油滴の表面張力を低下させる。紫外線が透過できない粒径を持った油滴では,光分解反応が油滴上の紫外線照射面近傍に限定される。この局所的な表面張力低下は,マランゴニ効果による向きのある駆動を引き起こし,油滴の駆動方向は,外部の紫外線源の位置により自在に制御される。
 照射時間がある程度以上経過すると,油滴内部に対流が出現し,これと連動して駆動速度が非線形に増大する。この現象は,油滴が紫外線照射による運動を自己アシストする機構を有していると見る
ことができる。微粒子の泳動現象のような外部刺激を運動エネルギーへと変換する受動的な駆動とは異なり,水棲微生物に見られる能動的な駆動が起こっていると言えるだろう。

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1) K. Suzuki et al., Chem. Lett. 2009, 38,1010.
2) K. Suzuki, T. Sugawara, ChemPhysChem 2016, 17, 2300.

鈴木健太郎 神奈川大学理学部化学科