日本化学会

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ニトロキシルラジカル触媒の新展開

Opening up new frontiers in nitroxyl radical catalyst

 2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)をはじめとするニトロキシルラジカルは,安定な有機フリーラジカル分子であり,レドックスが容易に起こりやすいことから,アルコールの酸化反応に有用な有機触媒として幅広く用いられている(式1)1)。最近では,新規ニトロキシルラジカル触媒の創製研究が精力的に行われており,光学活性ニトロキシル触媒2)やリサイクル型ニトロキシル触媒3)までもが誕生した。しかしながら,これら触媒作用はアルコールの酸化反応に限られるものであった。このような背景の下,筆者らは,ニトロキシルラジカルがカチオン性ハロゲンを有する化合物を触媒的に活性化させることに着目し,アミドとケイ素求核剤との酸化的カップリング反応を達成した(式2)4)。本反応は,アミドから反応系中で調製されたN-ハロゲンアミドが,塩基性条件下でTEMPO触媒により対応するイミンを形成する過程が鍵となる。さらに,本反応の反応機構を精査したところ,触媒がラジカルとして,直接的にハロゲン化合物を活性化することがわかった。これは,従来のアルコール酸化の反応機構とは全く異なる過程で進行することを意味している。
 本反応を通じて,ニトロキシルラジカルの有機触媒としての新しい機能性を見いだすことができた。今後,ニトロキシルラジカル触媒の更なる展開が期待できる。
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1) H. Bekkum et al., Synthesis 1996, 1153.
2) Y. Iwabuchi et al., J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 17591.
3) A. Studer et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 5034.
4) K. Moriyama et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 14546.

森山克彦 千葉大学大学院理学研究科